




難波の里に一人の藪医者が住んでいました。
ある日、産婦が訪ねてくるが、自分は無学愚盲のため、安産に生ませるのが不安でたまらない。
幸い、河内の八尾地蔵が安産霊験ありと聞いていたので、早速八尾地蔵に駆けつけ、安産を請願し、平産した後は、自分の手柄にしようと思い、願望成就の念仏を唱え、通夜篭りをしていると、夜半過ぎ、暗闇の藪の中から大勢の声がしてきたので、藪医者は、てっきり盗賊が現れたかと御堂の梁によじ登った。上から見てみると、その姿は、腹はふくれ、手足は火箸のごとく、まるで妖者そのものであった。
その騒ぎに地蔵尊が現れ、「この夜中に休息を邪魔するのは誰だ。」と。
その妖者どもは、「我々は餓鬼から来た者で、生きている時には、お寺にも喜捨し、説法も聞いたのに、なぜ閻魔王に餓鬼界に落とされたのかと訴えにきた。」という。
すると地蔵尊は、大声で、「自分の利得のためにいくら説法を聞いてもだめだ。そういう根性を直さねばさらに地獄に落とされるぞ。」と一喝されると、その大声で藪医者が梁から落ち、その落下音が天からの大岩石が落ちたのかと妖者たちは逃げ帰った。
藪医者も地蔵尊の話を聞いて、自分も欲心と利得の不如意であったことを痛感し、戒心給わったという。